2008年12月27日土曜日

個人でクラウド-Google Appsの勧め-

今年の最大のトピックは何といってもクラウドコンピューティングの離陸だったと思う。そして来年からは本格的な普及が始まる。すでにJTB、東急ハンズ、ユニチャームなどがGoogleの有償のサービス、Google App を本格的に導入した。いずれも圧倒的な低コストとパフォーマンスの向上が目的だ。この動きはますます加速する。

意外と知られていないが、Google Apps は個人でも非商用なら無料だし、独自ドメインを利用することができる。僕は Shichijo.comというドメインを使っている。管理者には専用の管理コンソールのアクセス権があり、いろいろな設定をすることができる。機能としてはウェブ版のグループウェアとほぼ同じと思えばよい。

僕のIT環境は90%以上は既にGoogle Apps に移行している。ワード、エクセル、テキストはもちろん、ありとあらゆるファイルはまずGoogleに放り込む。Google Docs で作れるファイルは最初から作る。Shichijo.comだけでなく数種類のドメイン名、数十種類のメールアカウントで送受信している膨大なメールは全てGmail で集中管理している。あとは強力な検索機能で、全てのデータは整理という非生産的な業務から開放される。とにかく全てを Google Apps に置いた瞬間から効率は劇的に向上する。

最近スマートフォンを買ったのでいつでもどこでも Google Apps にアクセスできるようになった。自宅のパソコンはネットブック(普段は外付けキーボードとモニターを付けてデスクトップとして使っている)なので、いつでも軽々と持ち出すことができるし、無線LANだけでなく、スマートフォンをモデムにしてアクセスすることもできる。まさしくユビキタスの環境が整ったことになる。イニシャルコストはイーモバイルのキャンペーンを使えば(僕は使わなかったが)ネットブック+スマートフォンで100円。ランニングコストは月々のスマートフォン利用料のみだ。

幸か不幸かこの不況だ。来年もIT予算は徹底的な見直しと一層の効率的化がされるだろう。そして、これはクラウドコンピューティングにとって強力な追い風になるに違いない。

個人用の Google Apps の管理コンソール

2008年12月21日日曜日

アメリカ大不況はマスコミが騒ぎすぎ?

サブプライムローン問題に端を発したアメリカ大不況。ウォール街の相次ぐ倒産、ビッグスリーの苦境は毎日のように報道されている。日本でも非正規労働者の相次ぐ契約打ち切り、正社員のリストラなど大騒ぎだ。そして極端な円高。今年の年末は一転して暗い雰囲気で迎えることになった。

実際アメリカの普通の市民生活はどうなんだろうか?アメリカ人の友人に聞いてみた。彼はニューヨーク州、といってもニューヨーク市ではない、に住む典型的な中流のアメリカ市民だ。以前シリコンバレーに住んでいたことがあって、僕とは旧知の仲だ。

彼の率直な感想は「マスコミの騒ぎすぎ」だ。不況、不況と言ってもホームレスが増えている訳ではないし、ましてや餓死者が出ているわけではない。ウォール街は大変そうだが、あそこはそもそもハイリスク・ハイリターンの町で、リストラや解雇は日常茶飯事。シリコンバレーも似たようなもので労働力が極端に流動化している。経済状況とは関わりなく日常的に労働者は水のように高いところから低いところへ流れていく。ウォール街やシリコンバレーはアメリカの一部だが、典型的な社会ではない。普通のアメリカ市民から見ても別世界であり、特殊な地域なのだ。そこからのみ広いアメリカの全てを類推してはいけない。

しかし、彼は現在のアメリカの一般的な雰囲気はうんざり感だと言う。ブッシュにうんざり、イラク戦争にうんざり、レイオフにうんざり。そのうんざり感がさらに報道を加速し、その報道にもうんざり。

今回の不況はメンタルな要素が大きくて、あと半年から一年くらい経てばアメリカ人もそのうんざり感から脱出できるんじゃないかとか。そうすれば経済も徐々に上向くらしい。

彼はもちろん経済の専門家ではない。少なくとも現在の典型的なアメリカ人の考えはそんなものだと思う。

2008年12月20日土曜日

円高の今こそ海外の通販サイトを使おう

先日腕時計を買った。アメリカ製の気に入ったデザインのがあったのだが、日本で買うと4万円もする。アメリカの通販サイトを探すと送料込みで170ドルであった。即注文、2週間ほどで届いた。当時のレートで1万8千円くらい。今ならもっと安い。

同じもの買うのに日本よりアメリカで買ったほうが安いものがたくさんある。僕は通販サイトでよく本やDVDを買うが、日本のアマゾンよりアメリカのアマゾンで買った方が送料込みでも安いことがよくある。急がない場合はそれで十分だ。そういう人が結構いるのだろう。アメリカのアマゾンへアクセスすると日本語で「日本でお買い物しましょう」というアナウンスが出る。そうはいかない。

アメリカ製ならアメリカで買うより日本で買った方が多少高いのはしかたがない。しかし、先述の時計のように3倍近い値段を付けるのは詐欺のようなものだ。せいぜい20-30%増しくらいが許容の範囲だろう。はなはだしい場合は日本製なのに日本よりアメリカで買った方が安い場合がある。

少し高い買い物をするときはまずグーグルで検索していろいろな通販サイトを比較する人は多いだろう。僕もそうだ。ただ、商品名を英語で入力するのが原則だ。アメリカの通販サイトも比較の対象にするためだ。だから僕のグーグルの画面のデフォルトは英語(google.co.jpではなくgoogle.com)だ。

アメリカで商品を買って不良品だったり、注文と違うものが送られてきたりとかのトラブルを心配する人も多いだろう。僕もそういう経験がまったくない訳ではない。しかし、大手のクレジットカード会社でできればゴールドカードなどを使えば、大抵オンラインショッピング対応のショッピングプロテクションが付いていて、トラブルの際の支払いを全額保障してくれる。会費は1-2万円くらい必要だが、それだけの価値はある。クレジットカードは会費だけで決めてはいけない。

円がこれだけ高くなったのは本当に久しぶりだ。まさしく海外の通販サイトを積極的に使うチャンスだ。ほんのちょっとの英語を使えば大いに節約できるし、ショッピングを楽しむことができる。

僕がオンライン、オフラインに限らず、ショッピングでクレジットカードを「使わない」のはクレジットカードが「使えない」場合だけだ。理由は現金よりクレジットカードが「安全」だからだ。

2008年12月13日土曜日

アメリカの司法制度について-陪審員と弁護士-

日本でも裁判員制度が始まることになった。僕は非常に良いことだと思う。候補者の通知は来なかったが、選ばれたら喜んで参加するだろう。

ご存知のようにアメリカには陪審員制度がある。陪審員による裁判を受けるのは憲法で保障された権利だとされている。つまり法律のプロである裁判官より素人である市民の評決の方が被告人にとってより正しいはずだと考えれられているのだ。いかにもアメリカらしい考え方だ。

陪審員に召喚された場合は原則として拒否できないことになっている。もっとも仕事の事情とかいろいろ理由を付けてで辞退することはできる。これも2回までで、3回目は辞退できない。殺人罪などに当たると責任も重大だし、日数もかかる。だから1,2回目が窃盗などの軽い罪の場合は無理してでも応じる人が多いそうだ。

僕の知人も二人召喚されたことがある。受付の女の子の方は初めてだったそうで、興味津々喜んで休みを取って出かけていった。僕をよく射撃に誘ってくれた50年配の男性はこれが3回目だと言っていた。召喚されると言ってもその程度の確率なのだ。

弁護士もアメリカでは身近な存在だ。知人の女性が大きな交通事故に巻き込まれたことがあった。本人には怪我はなかったが、同乗していたご主人が短期間だが入院し、車がお釈迦になった。それで相手側に損害賠償を求めて民事裁判になった。結局勝訴して4万ドル手に入れたが、弁護士費用が賠償額の50%の契約で2万ドルしか入らなかったとぼやいていた。

アメリカでは弁護士の成功報酬制度が一般的だ。普通の市民は高額の弁護士料など払えないので便利な制度だ。しかし弁護士にとっては最悪タダ働きの可能性もあるわけでリスクをとる分報酬も高額になる。

日本では最近内定取り消しや契約途中での派遣切りが話題になっているが、アメリカなら弁護士の方から訴訟を勧める電話がかかってくるかもしれない。ほぼ間違いなく勝訴できるからだ。そして慰謝料は折半だ。でも金のない庶民が大企業を相手に訴訟を起こせるのは成功報酬制度のおかげだ。それが企業側が法令を遵守する強烈な圧力にもなっているのだ。日本にもあればいいのにと思う。
アメリカでは交通事故訴訟専門の弁護士はAmbulance Chaser(救急車追っかけ人)と揶揄される。町で救急車を見かけると追いかけていき、被害者に訴訟を勧めるからだ。一方「彼はAmbulance Chaserだ」と言うのはヘボ弁護士への悪口でもある。女性弁護士が「私の夫はこの事務所の最高のパートナーなの。彼は救急車の運転手なのよ」というジョーク。

2008年12月4日木曜日

IT技術の空洞化-ディザスタリカバリの観点から-

都内のある大手のIT関連企業がディザスタリカバリプランを策定した。大規模災害が発生したこと事を仮定して、コンピュータシステムの中から事業の継続に必須のシステムを選び出し、継続稼動に必要な予備機材や人員を見積もった。そして運用に必要な人員の名簿を作ったのだが、それにはその会社の社員がほとんど含まれていなかった。ほぼ全員が派遣や請負企業の社員だったのだ。正社員であっても災害時にデータセンターに技術者を集めることは難しい。交通の問題もあるが、そもそも家族を残して出勤しろといっても無理な話だ。ましてや派遣や請負先社員にそんなことを言っても100%不可能だろう。一週間分の食料備蓄まで検討したその計画は頓挫した。なぜこんなことになったのだろうか。

現在の日本の大企業で自社でITシステムを運用している会社は多くない。IT部門は企画ばかりしていて、ほとんどITベンダー任せだ。そして、そのITベンダーも設計やらコンサルティングばかりやっていて、具体的に手を動かしてシステムの構築や運用をしているの下請けの技術者だ。ITベンダーの社員は一通りの教育を受けた後、2-3年もすれば下請けに指示ばかりして自分で手を動かすことはしなくなる。身につくのはシステム構築の技術ではなく、パワーポイントやエクセルの使い方ばかりだ。IT関連の企業でさえ、IT技術が空洞化しているのだ。

欧米でもIT部門の運用はITベンダーの利用が欠かせない。しかし、システムの基幹部分は内製している会社は少なくない。一つは人材が流動化しているため、優秀なIT技術者を社員として採用しやすいことがある。しかし、根本的な理由はやはりリスク管理の考え方にあるのではないか。

アメリカの同時多発テロの時、マンハッタンにある多くの企業ではコンピュータシステムが稼動不能になり復旧に多大な時間がかかった。しかし、システムを内製し、自前の技術者を抱える企業は迅速に復旧させることができたと言う。結果損害を最小限に抑えることができたことは言うまでもない。