2016年7月24日日曜日

南アフリカの地方自治制度(その2)選挙制度編

南アフリカでは8月3日に行われる統一地方選挙をひかえ、町には各党や候補者のポスターが貼られ、一部では暴動が起こるなど、各メディアの報道も選挙絡みが多い。

既に述べたように、南アフリカは国(National)、州(Province)、郡(District Municipality)、大都市圏(Metropolitan municipality) 、市(Local municipality)のカテゴリーに分けられる。もちろん、それぞれに議会がある。選挙制度はカテゴリーによって少しずつ異なる。

国の選挙

国政選挙は5年に一度行われる。

下院議員(国民議会)

下院議員は全部で400議席ある。そのうち200議席は全国を選挙区とするで拘束名簿による比例代表選挙で選ばれる。他の200議席は各州を選挙区とする同じく比例代表選挙で選ばれる。各州の議員定数は州の人口に比例して、30〜90議席を配分されている。有権者は2つの選挙区に属することになるが、投票するのは一票のみである。

上院議員(全国州評議会)

上院議員は各州の代表とされる。各州には人口に関係なく10議席が割り当てられる。9州あるので、定員は90議席である。10議席のうち、6議席は常任議員と称され、州議会から各政党の構成比率に比例して選出される。残りの4議席は特別議員と呼ばれ、州政府の閣僚から選出される。つまり、上院議員は国民の直接選挙では選ばれない。

州議会の選挙

州議会選挙は国政選挙と同時に実施される。投票方式は国政選挙と同じく拘束名簿による比例代表選挙である。つまり、有権者は同時に下院議員選挙と州議会議員選挙に各一票を投じる。

 地方議会選挙

地方議会においても選挙は5年に一度実施され、国政選挙の間の年に行われる。

大都市圏及び市議会議員選挙

大都市圏及び市議会議員のうち半数は市の全域を選挙区とする拘束名簿による比例代表選挙で選ばれる。つまり投票用紙には党名を記入する。残りの半分は市を複数に分けた区(Word) の代表として、投票用紙には候補者名を記入する。なお、非常に小規模であって、市議会議員が少ない市では比例代表選挙のみで区の選挙がない場合がある。

郡議会議員選挙

郡議会議員のうち、4割は拘束名簿による比例代表選挙で選ばれる。残りの6割はその郡を構成する市議会から選出される。つまり有権者が直接投票するのは比例代表選挙のみである。

なお、人口の非常に少ない地区の中には市に属せず、郡だけに属する場合があり、その場合は郡議会議員選挙のみに投票する。また、大都市圏は郡に属さず、単独で存在するため、郡議会選挙は行われない。

首長選挙

南アフリカの政治制度の特徴として、大統領を始め、首長(州首相、郡長、市長)を直接選挙で選ぶという制度がなく、各首長は議会議員選挙の後で各議員の互選によって選ばれる。もちろん通常は第一党の党首、地区代表者、または選挙時に首長として指名された者(議員)が選ばれる。首長は各議会の議長を兼ねる。

総括

以上のように、南アフリカでは選挙は原則として比例代表方式である。これは憲法の規定による。南アフリカは多民族国家なので、各民族出身の議員数をその民族の人口と比例させる必要がある。例えば、もし小選挙区制度を採用すれば、議員のほとんどが黒人(人口の8割が黒人のため)になってしまう。このような事態になれば民族和解は成り立たない。

ただし、幾つかの例外がある。下院議員の場合、なぜ単純に全国区の比例代表選挙のみにしないかだが、恐らくは少数民族、具体的には白人に対する優遇策だと思われる。南アフリカの白人の人口は全国的には9%だが、かなり地域的な偏りがある。私の住むリンポポ州では人口の約97%が黒人で白人はわずか2.6%に過ぎない。ところが都市部であるハウテン州や西ケープ州では人口の15%以上が白人である。つまり、単純な全国区にした場合は全下院議員400議席のうち、白人は36議席しか獲得できないが、州を選挙区として加えた場合は議席がかなり増加する余地がある。私見だが、アパルトヘイトを廃止して新憲法を草案する過程で、当時の白人政権の間で妥協が成立したのではないだろうか。

同様に、大都市圏及び市議会議員選挙では比例代表に加えて小選挙区制度を取り入れている。これも、比例代表制度だけでは白人の議員が出現しにくくなるためだと思われる。例えば、私の住む Ba-Phalaborwa市は人口15万人のうち、93%が黒人である。単純に比例代表選挙にすれば全市議会議員が黒人になるであろう。しかし、市の中心地(タウンと称される)Phalaborwaでは地区の人口1万3千人のうち、56%は白人であり、ここを区とする議員は白人になる可能性が高い。

このように南アフリカの選挙は地方レベルから国政レベルまで比例代表制が基本である。しかし、比例代表制の最大の欠点は政権交代、正確には政権与党の交代が非常に起きにくい事である。現にアパルトヘイトが廃止され、全民族による民主的な選挙が行われるようになって22年間が経つが、その間一貫して政権を維持しているのがANC(African National Congress:アフリカ民族会議)である。これは国政だけでなく、ほとんどの州や郡、市議会に至るまで同様である。長期政権には当然のように腐敗が付きまとう。あらゆる政治レベルにおいて汚職が日常的に行われており、政権交代の難しさと相まって国民、特に若い層の政治離れ、諦めが問題となっている。実際、周りの講師と学生10人に投票に行くかどうか聞いてみたのだが、8人が「行かない」、2人が「分からない」で、「行く」と答えたのは一人もいなかった。

 

写真は自党への投票を呼びかける主要政党のポスター。

下院議員400人のうち圧倒的多数の約250議席を占めるのが政権与党のANC(African National Congress:アフリカ民族会議)、第二党のDA(Democratic Alliance:民主同盟)は約90議席を持ち、白人やカラード(混血)の支持者が多いとされている。第三党のEFF(Economic Freedom Fighters:経済的自由の闘士)はANCから分離した反資本主義、汚職撲滅、黒人至上主義を訴えるラディカルな新興政党で前回の選挙では25議席を獲得している。

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