2009年1月11日日曜日

アメリカ人にとって軍とは

ヨドバシカメラのついでにTSUTAYAに寄ると『In the Valley of Elah』が新作で出ていたので借りた。イラク戦争から帰還直後に惨殺された兵士の父親役のトミー・リー・ジョーンズが渋い。内容もなかなか考えさせられた。

アメリカという国は学歴社会なので、社会的に成功し、経済的に豊かになるためには大学を出る必要がある。しかし、多くのアメリカ人は子供の扶養の義務は高校を卒業するまでと考えていて、高校を卒業すると一切干渉しない代わりに経済的な補助はしない親が多い。働きながら自分で学費を稼いだり、一旦社会へ出て学費を稼いでから大学へ入学する人が多いのはこのためだ。

その中で軍は重要な選択肢だ。入隊すると無料で各種の専門訓練が受けられる。軍籍のまま大学へ入れば卒業までの学費や生活費は全て軍が負担してくれる。その代わり卒業後に在学期間の2倍を軍で働く必要はあるが。特に大きな産業のない地方にとって軍は重要な就職先なのだ。また、本職があっても収入の足しにするために州兵に志願する人も多い。年に数週間の訓練に参加するだけで少なからぬ手当てがつくからだ。

もちろん戦争が起こって戦地への派遣命令があれば拒否できない。イラク戦争で戦っている兵士のほとんどはそんな若者たちなのだ。

派遣命令の拒否は重大な犯罪行為だ。といっても死刑になるわけではない。普通はせいぜい数年の懲役刑の後に不名誉除隊になる。不名誉除隊とは民間企業で言う懲戒免職のことだ。日本人にはピンとこないが、軍を不名誉除隊になるということはアメリカ人にとって国家の裏切り者とほとんど同義だ。この経歴が公になれば就職もできないし、近所からも村八分にされる。州によっては公民権の停止や求職時の履歴書に記載を義務付けているところさえある。一生日陰者としての生活が待っているのだ。

北朝鮮に拉致された日本人、曽我ひとみさんと結婚した元アメリカ兵ジェンキンス氏も敵前逃亡で不名誉除隊になった一人だ。母親の見舞いに帰国した時、僕はちょうど旅行でアメリカにいた。テレビのニュースで取り上げられていたが好意的・同情的は報道はなかった。あくまで国家の裏切り者なのだ。北朝鮮から解放された時、慣れない日本で生活するより曽我ひとみさんとアメリカで生活したらなどと言っている馬鹿な評論家もいたが、例え帰りたくても帰れないにちがいない。

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